消化器内科
消化器は大きく2つに分類されます。1つ目は、食べ物を口から摂取して排泄されるまでの経路である消化管と呼ばれる食べ物の通り道です。この経路は栄養や水分の消化・吸収など重要な役割を果たしています。2つ目は、肝臓、胆嚢、膵臓など、ホルモンの調整、栄養の消化、代謝に関与する重要な役割を果たす消化器です。
これらの消化器のどちらか一方にでも異常があると、がんだけでなく、糖尿病、肝硬変、下痢や腹痛などを伴う腸疾患などが引き起こされ、日常生活に大きな影響を及ぼします。こうした場合、主に薬による内科的な治療が行われるのが消化器内科です。
もし以下のような症状がみられる場合は、消化器に何らかの異常が起きていることが疑われますので、早めに消化器内科を受診してください。
消化器の症状と疾患
よくある疾患
急性胃炎
急性胃炎は、何らかの原因により胃の粘膜に急激な炎症を引き起こす疾患で、胃の不快感や強い腹痛、吐き気などが生じ、悪化して胃潰瘍を発症すると血便や吐血が起こる可能性があります。
びらんが広範囲に生じる急性胃粘膜病変は、ストレスや刺激が強い食事、過剰なアルコールの摂取、アレルギー、解熱鎮痛剤や抗菌剤などの薬によって起こります。
現在は胃カメラ検査が広く用いられるようになったため、粘膜の炎症状態を正確に確認できるようになりました。
慢性胃炎・萎縮性胃炎
慢性胃炎とは慢性的な胃の炎症状態で、胃酸や胃液を分泌する組織が減少し、胃の粘膜が萎縮する状態が萎縮性胃炎です。胃炎が広範囲に進行すると、胃がんを発症する可能性があります。ピロリ菌除菌治療によって胃がんの発症リスクを低減することが可能です。慢性胃炎の方は胃がん発生リスクは高い傾向にあるので、定期的に胃カメラ検査を受けることをお勧めします。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
普段は食物を分解する役割を担っている胃酸や消化酵素が、胃や十二指腸に深いダメージを与えることで胃潰瘍・十二指腸潰瘍を発症します。代表的な原因としてはピロリ菌感染が挙げられ、他にもストレスや薬剤などでも起こります。
多くは40代以降の方にみられるものですが、ピロリ菌が感染している若年層の方でもみられることがあります。発症すると、お腹の張り、みぞおちや背中の痛み、胸やけ、吐き気などの症状が現れます。潰瘍が悪化すると出血が起きることもあり、それに伴って下血や吐血が生じます。
胃がん
胃がんは欧米に比べて日本での発症数が多く、多くは萎縮性胃炎から発症に繋がると言われています。発症要因の大部分はピロリ菌感染によるものですが、塩分の取り過ぎ、喫煙、栄養バランスが偏った食事なども考えられます。
早期の胃がんや特殊なタイプの胃がんの発見には胃カメラ検査が不可欠です。近年は内視鏡の診断・治療レベルが上がってきており、がんの早期発見・早期治療が以前に比べて容易になっているので、定期的に胃カメラ検査を受けるようにしましょう。
ヘリコバクター・ピロリ感染症
ヘリコプター・ピロリ菌に感染すると萎縮性胃炎が発症し、悪化すると胃潰瘍や十二指腸潰瘍、そして胃がんへと進行していく可能性があります。ほとんどの場合、幼少期に口内から菌が侵入し、胃の粘膜に生息します。薬物療法によりピロリ菌を除菌治療することで、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんの発症を予防することが可能です。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃の内容物と胃酸が食道に逆流することで、食道粘膜に炎症が起こることで発症します。発症すると、胃酸が食道からのどまでこみ上げてくることで、胸やけやのどのヒリつき、呑酸などの症状が現れます。
胃酸が過剰に増えたり、胃酸が逆流することを防ぐための機能が低下したりすることで発症します。主な原因には過食、加齢、肥満、習慣的な飲酒、悪い姿勢、食道裂孔ヘルニアなどが挙げられます。
食道がん
食道がんの主な原因としては喫煙や飲酒が考えられ、初期段階は無症状ですが進行するに伴って食事中ののどのつかえ感、胸がしみる、胸痛などの症状が起こります。早期発見することで、内視鏡治療などの侵襲性の低い治療で治癒が見込めます。普段から喫煙や飲酒をしている方やバレット食道と診断された方は定期的に胃カメラ検査を受けるようにしましょう。
肝機能障害
肝機能障害とは、肝臓が何らかの原因によって炎症を起こし、肝細胞が破壊されてしまう疾患です。発症すると肝細胞中に存在するASTやALTと呼ばれる酵素が血液中に漏れ出ることで、血液検査で異常値を示します。
肝機能障害の主な原因は、ウイルス性肝炎(多くはB型、C型肝炎)、脂肪肝・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、アルコール性肝障害、薬物性肝障害、自己免疫性肝炎などが挙げられます。検査で異常があった際は、消化器内科に診察を受けるとともに、脂肪肝・アルコール性肝障害の場合には生活習慣を改善して肝機能の働きを向上させることで、悪化を防ぎましょう。
脂肪肝
脂肪肝は、過剰な糖質や脂質が中性脂肪に変換され、肝臓に中性脂肪が蓄積(脂肪が肝臓全体の30%以上を占める)された状態です。
多くの脂肪肝の患者様はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)も併発しており、これを放置すると肝臓の機能が悪化し、肝炎や肝硬変などの深刻な病気に進行する可能性があります。さらに、脂質異常(高中性脂肪)や糖尿病などの生活習慣病を誘発し、動脈硬化の進行リスクが高まります。そのため、脂肪肝は健康に対する重大な影響を及ぼす病態であり、早期の対策と適切な治療が必要です。
慢性肝炎・肝硬変
肝臓に慢性的な炎症が6ヶ月以上続くと、慢性肝炎と診断されます。この病態の主な原因はB型肝炎とC型肝炎です。
日本では、慢性肝炎の発症の大部分がC型肝炎ウイルスによるものであり、その割合は70~80%になります。B型肝炎ウイルスによるものは15~20%程度です。アルコールのとりすぎや脂肪肝からも慢性肝炎になる場合もあります。慢性肝炎の治療は、その原因に応じて異なりますので、適切な治療が必要です。
肝硬変は、慢性肝炎が長期間進行することにより、肝臓内に線維組織が蓄積して肝臓が硬くなる病態です。この線維組織の蓄積により、肝臓の組織が正常な肝細胞からなる柔らかい組織から、硬くてゴツゴツした組織に変化します。
肝硬変が進行すると、肝臓の機能が低下し、さらに肝がんや肝不全などの合併症を発症する可能性があります。そのため、肝硬変は重篤な状態であり、早期に発見し、適切な治療を行うことが非常に重要です。
肝臓がん
肝細胞がんの主な原因は、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などです。このうち約90%がウイルス性肝炎(B型肝炎やC型肝炎ウイルス)によるものとされています。
ウイルス感染が長期間続くと、肝細胞が破壊と再生が繰り返され、最終的に肝臓が硬くなり肝硬変を引き起こします。この過程で、がんを促進する「がん遺伝子」と本来細胞のがん化を抑制する役割を果たす「がん抑制遺伝子」に影響が及び、遺伝子の変異が積み重なることで肝細胞がんが発生する可能性が高まります。
大量の長期間の飲酒も肝細胞に損傷を与え、遺伝子異常を引き起こすことがあります。さらに、アルコールを摂取しない場合でも、脂肪肝が発生し、肝臓に炎症が起こることでがんが発生する可能性があります。近年は肝炎ウイルスの治療の進歩により、ウイルス性肝炎による肝細胞がんの発生は減少していますが、非アルコール性脂肪性肝疾患に関連する肝細胞がんは増加傾向にあります。
胆石(胆のう結石症)・胆嚢炎
胆のう内にできた結石である胆のう結石は基本的に胆石と言います。胆石そのものには症状はありませんが、胆石が原因で胆嚢炎を発症すると、みぞおちから右の肋骨下にかけて強い痛みが生じ、痛みは背中や右肩にも現れることがあります。腹痛等の症状がある場合は消化器内科の診察をお受けください。胆石は検診などで偶然見つかるケースがほとんどで、無症状の場合は経過観察によって対応します。
急性膵炎・慢性膵炎
膵臓は、炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂質を分解するリパーゼなどの消化酵素を生成します。これらの消化酵素は、通常は不活性型として膵臓内で生成され、自らの膵臓を消化しないようになっています。急性膵炎の原因は主にアルコールと胆石で、主な症状は腹痛、背部痛、発熱です。 大量の飲酒などの要因により、膵臓の消化酵素が膵臓内で活性化し、自己消化作用を起こすことがあります。この現象を膵臓の自己融解と呼びます。急性膵炎は、消化酵素が急速に活性化し、膵臓を溶かしてしまう疾患です。 一方、慢性膵炎は、膵臓に繰り返し炎症を起こす疾患で、原因はアルコールと喫煙が関係しています。消化酵素が徐々に活性化し、膵臓に炎症を引き起こします。炎症が繰り返されると、正常な膵組織が間質といわれる線維組織に置き換わり、膵臓全体が硬くなり、膵石をつくることもあります。初期症状は主に腹痛ですが、進行すると次第に膵機能が低下し、糖尿病や下痢(脂肪便)、黄疸などの症状がでることがあります。
膵臓がん
膵臓がんは特有の症状がないため、なかなか早期発見はできません。初期症状としては、腹部の違和感や食欲低下、体重減少など他の疾患でもみられる症状が多く、進行すると胃の不快感や腹痛、腰背部痛、黄疸などの症状が現れます。
現在のところ、明確な原因は分かっていませんが、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、膵臓がんの家族歴などが関係していると考えられています。これらに当てはまる方は定期的に検査を受けて早期発見に努めましょう。
便秘症
便秘症は複数の種類に分けられ、大腸や直腸のトラブルが原因で起こる「機能性便秘」、便の通過が物理的に妨げられる(大腸がん・手術後の癒着・炎症性腸疾患など)によって起こる「器質性便秘」、全身疾患の症状として起こる「症候性便秘」、薬の副作用として起こる「薬剤性便秘」があります。
便秘の原因は様々で、それによって治療法も異なってきます。重篤な疾患によって起こることもあるので注意が必要です。便秘症状が続くときは診察を受けてください。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、便秘や下痢が数ヶ月以上に渡って続き、腹痛、腹部膨満などの症状を伴うことがあり、検査をしても異常がみつけられない場合に疑われる疾患です。原因ははっきりとは分かっていませんが、ストレスや自律神経のバランスなどの心理的要因が関与しているのではないかと言われています。
大腸がん
大腸がんは、大部分は大腸ポリープ(線種)の進行によって引き起こされます。大腸粘膜の炎症や粘膜から直接発症するがんもあります。そのリスク要因には、食生活の欧米化や高齢化などが挙げられます。症状がほとんどないまま病気が進行することがあり、そのためには定期的な大腸カメラ検査が重要です。
また、大腸ポリープが見つかった場合は、大腸ポリープ切除を受けることで将来の大腸がんのリスクを軽減できます。大腸カメラ検査が必要な場合は連携する医療機関をご紹介しております。